コルタサル 「悪魔の涎・追い求める男」 

 最近ラテンアメリカ文学にはまっている。それはラテンアメリカ文学は夢と現実の境界が曖昧ということが特徴で、僕が書こうとしている小説に内容が似ていると思ったからだ。いくつか読んでみたのだが、コルタサル「悪魔の涎・追い求める男」という短編集は非常に心に突き刺さった。いくつか短編が入っていて、正直前半に収められている作品はあまり興味を引かなかったが、表題にもなっている「追い求める男」と「南部高速道路」の2作品は日本人ではまず書くことができないだろう。この2作品だけでも読むことを勧める。

 「追い求める男」は登場人物のドラッグに溺れたジャズサックス奏者ジョニーが特徴的で、作中ほとんど奇行に走っている。基本的に虚言を言うが、彼の考察は物事の新たな見方を提示してくれる。主人公はジャズ評論家で一応彼を評価する立場にあるが、ジョニーとはその人間味に惹かれて友人として付き合っている。読者はそのジョニーとその周りの人間関係、はたまたジョニーの人生観、死生観を聞くことになる。このジョニーは周りの人を振り回し、挙句には鬱状態になり、現実世界で遭遇したらまず関わりたくないタイプであるのにも関わらず、なぜか惹かれてしまう。こういった堕落しているのに魅力を感じてしまうのはなんなのだろう。自分にはないものを持っているからか、だめだとわかっているのに主人公は付き合いを続けてしまう。そういった、何とも言えない話だ。

 「南部高速道路」はパリへの移動途中に大渋滞に巻き込まれてしまうお話。一日たってもほとんど動かず、途方に暮れていると周りにいた人たちで不思議とコミュニティができあがる。偶然自分の車の近くの車に乗車していた人たちなので名前が分からいので、乗っていた車の名前で話は展開されていく。しばらくするとリーダーが生まれ、水や食料を販売する車が現れる。コミュニティも変化が起こり始め、少しずつ渋滞中の日常生活にも変化が訪れる。だが、この話すごいのはこの後である。ネタバレになってしまうのでこれ以上は言えないが、なんと言ってもラストが圧巻である。このラストで伝えたかったことはは現代人にも十分に通じると思う。

 

 

悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫)

悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫)