バナナ剥きには最適な日々 円城塔

 最近やっと満員電車でも本を読む術を身に着けた。うまくスペースを見つけ、他人に迷惑をかけないようにしてそっと本を手に取る。本を見つけたスペースへ差し込む。他人との距離が極限まで近い満員電車では一挙一動全てに気を遣わないといけないから何をするのにも神経をすり減らす。そんな環境で最近読み終えた本がある。それが円城塔が書いた「バナナ剥きには最適な日々」だ。

 これは短編集である。非常に難解だが、云わんとしていることはなんとなく感じ取ることができる。遠回しに遠回しを重ねた文体で、中には表記方法そのものが作品の一部となっている作品も存在する。この短編集の中で最も分かりやすいのがタイトルの「バナナ剥きには最適な日々」だろう。AIが主人公で、チェックするのが仕事なのだが、暇すぎてバナナ星人を想像の中で作ってしまったというお話だ。基本的にAIによる一人語りで話が進んでいく。もしAIに思考というものがあったのならばという発想は面白い。これからの時代いよいよAIが人間よりも賢くなってきているから、そのうちこういったことが起こるのかもしれない。でも、AIもまた人間が作ったものである。人間の思考をモデルにしている。だから「バナナ剥きには最適な日々」のAIのように暇や寂しさを感じ、うつ状態にもなるのかもしれない。だからAIが空想の世界で友達を作るようになるのかもしれない。著者が物理学を学んでいたこともあり、とても理系チックなお話だ。この作品だけでなくすべての作品に言える。だが、決してコテコテの理系というわけではなく、適度にバランスが取れていて、この言葉遣いが微妙で不思議な世界観を生み出している。

 この本は読んだ人によって感じ方はまるで違うと思う。それはどの作品でもそうだろと云われてしまえばそれまでだが、独特の言葉回し、雰囲気を見てもらえば納得しいてもらえると思う。まだ1度しか読んでいないが、読み返すとまた感じ方が変わってくると思う。それはこれは考えて読む作品ではなく、感じる作品であると思うから。

 この作品を読んだのが満員電車ということもありなおさらカオスなものに感じている気がする。次は落ち着いたカフェなんかでコーヒーでも飲みながら読みたい。(笑)